2021年5月28日金曜日

チャイコフスキー/マンフレッド交響曲 ビシュコフ指揮チェコ・フィル

チャイコフスキー/マンフレッド交響曲 ビシュコフ指揮 チェコ・フィル

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 何回か本家ブログに書いているが、僕がヨーロッパのオーケストラを初めて聴いたのが、ビエロフラーヴェク指揮のチェコ・フィルだった。初めて聴いた時の輝かしくもまろやかで、力強くも心地良いアンサンブルは未だに脳裏に焼き付いている。
 10年ほど前にブロムシュテットとの来日公演で聴いたときは、伝統の音は健在だったものの、アンサンブル能力がかなり落ちている印象で、2000年代以降の録音も精彩がなかった。
 しかし、このビシュコフとのチャイコフスキーは往年のチェコ・フィルのアンサンブルが復活している印象を受ける。第2楽章の弦と木管が複雑に絡み合う場面を聴くと「上手いな〜」と唸ってしまう。
 そもそも、チェコ・フイルのチャイコフスキーというのがあまりイメージが結びつかなかったが、ビシュコフ&チェコフィルはいい!聴いていて本当に気持ちがいいチャイコフスキー。

 このマンフレッド交響曲は、チャイコフスキーのシンフォニーの中でも異形の作品で、指揮者に実力がないと魅力を十全に引き出すことはできない。

 ビシュコフはゆっくり目のテンポで、第1楽章中間部や第3楽章では、一つひとつのフレーズを慈しむように紡ぎ出していく。それがチェコ・フィルの優雅で気品が溢れる音に絶妙なマッチングを見せる。
 一方で、第1楽章および第2楽章での劇的な場面での迫力も見事!そういう場面でも格調高いアンサンブルは健在で、20世紀のロシアのオーケストラのようなギラギラした音楽とは対極で、強引なところは微塵もなく爽快に鳴る。各パート同士が呼応しながら楽想が次々に展開していく。
 ビシュコフという指揮者は、よく来日していることもあって、馴染み深い分、カリスマ的な人気はゲルギエフやプレトニョフに譲るところがあるが、ウィーン・フィルやベルリン・フィルを始め超一流オーケストラの常連で、オーケストラを鳴らすツボを心得ている、じっくりと進める一方で音楽が全く弛緩しない。一度生演奏で聴かないといけない人だと思っている。

2021年5月22日土曜日

マーラー/交響曲第1番『巨人』(1893年版 花の章付き) ロト&レ・シエクル

マーラー/交響曲第1番『巨人』(1893年版 花の章付き) 

指揮:フランソワ=クザヴィエ・ロト
レ・シエクル

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 今までこの曲は、最終稿しか聴いてこなかった。洗練された最終稿に比べて、このハンブルク稿は荒削りなところが魅力。特に、第4楽章の展開部でのクレッシェンドでティンパニのロールが加わっており、まるで第2番「復活」の最終楽章の地獄の釜の蓋が開く場面を思わせる。ちなみにこの曲の版の変遷については、こちらが参考になった。
 これはハンブルク稿の特徴なのか、はたまたロトの解釈なのか(恐らく後者)第一楽章冒頭のフラジョレットの音が、楽章が終わるまで、そこここでこだまするように感じたのが新鮮。ふと思ったのだけれど、これはマーラーの耳鳴りではないかと思う。そして、この耳鳴りはアイデンティティを求めてさまようマーラー自身を表しているようだ。
 ベートーヴェンからブラームスにかけてのロマン派のシンフォニーは、「正しい私」が色々な壁に直面し、最後には栄光を勝ち取って「私は正しい、そしてあなたも!我々は勝った」というカタルシスへ突き進んでいく。
 しかし、マーラーの交響曲の世界には確固たる自己を持った私、というものが無い。ロト&レ・シエクルの演奏を聴いていると、そのことを強く自覚させられる。

 表現としては、金管の音の質感を徹底的に柔らかくすることで、弦の音を浮き彫りにすることに成功している。ただ、もう少し弦楽器の響きにふくよかな厚みが欲しい。第4楽章の嵐の場面が過ぎ去ったあとの変ニ長調に転調する第2主題の場面などは、特にそう思う。
 そういう物足りなさを含みながらも、恐らく長く聴いていく演奏になりそうな予感がする。

2021年5月15日土曜日

R.シュトラウス/アルプス交響曲 ルイージ指揮 ドレスデン・シュターツカペレ

R.シュトラウス/アルプス交響曲

指揮:ファビオ・ルイージ
ドレスデン・シュターツカペレ


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 SKDのアルペンは、ベーム、ケンペ、シノーポリという先人の名盤があるが、このルイージとの録音は、ハイレゾの素晴らしい録音も含めた総合力では最良の選択となる一枚だと思う。

 ルイージらしく、引き締まったサウンドをSKDから引き出し、情景変化の描きわけが見事。「滝」の場面や「霧が立ちこめてきた」場面での、芸の細かい職人的な音の響き、ケンペ盤ではここまで細かい音は聴けませんから、録音技術の進歩の恩恵は侮れないものがある。

 マニアックな聴きどころとしては、「登山」の開始場面で聴こえてくるホルンのバンダ部隊の音が、なんとも気品あふれる音で、ほれぼれしてしまうんだよな。これはSKDにしか出せない音だ。

 SKDはルイージとの来日ツアーで、今までの「いぶし銀」の称号を返上して「レッド・ゴールド」という新しいキャッチフレーズを引っ提げていた。イタリア人のルイージ(本人はイタリア人よりもドイツ人のほうに近いと言っているが)によって、やや明るめの響きが引き出されていて、オケの伝統の音とうまくマッチしていた。
 ティーレマンの時代に入って、このオーケストラからは、こういう音はもう聴けなくなってしまった。N響をもっと高い次元に引き上げて、こういう音を引き出してくれるだろうか?それも楽しみになってきた。

2021年5月8日土曜日

ステンハンマル/交響曲第2番 ヴェステルベリ指揮 ロイヤル・ストックホルム・フィル

ステンハンマル/交響曲第2番
スティグ・ヴェステルベリ指揮
ロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団

 メインブログでステンハンマルの交響曲第2番を採り上げた時に、コメントで教えていただいたことがきっかけでヴェステルベリという指揮者の音源を初めて聴いた。
https://open.spotify.com/track/4cNw9XCcio2OzHoYbKdUf7?si=5C3OrM8URdWouZDMs-qCAg&utm_source=copy-link
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 これを聴いて、ステンハンマルの魅力にますます開眼した。このヴェステルベリという指揮者は北欧楽曲のスペシャリストのようで、音の質感が他の指揮者とは全然違う。第一楽章の終結部なんて、こちらがもらい泣きをするほど。弦がむせび泣き、管が渋い音で迫ってくる。第2楽章などでのピアニッシモのニュアンス豊かな世界も素晴らしい。
 全体的には自然な呼吸感で進められ、空気が張り詰めたり緩まったりという緩急も上手い。
 ロイヤル・ストックホルム・フィルは非常にレベルが高い(デンマークやスウェーデンのオーケストラは本当にどこもレベルが高い)。以前の愛聴盤のネーメ・ヤルヴィ&イエテボリ響に代わって、この曲の決定版になった。

2021年5月3日月曜日

ウォルトン/オラトリオ『ベルシャザールの饗宴』 ダニエル&イギリス・ノーザン・フィル

ウォルトン/オラトリオ『ベルシャザールの饗宴』

ポール・ダニエル指揮 イギリス・ノーザン・フィルハーモニア

バリトン:クリストファー・パーヴズ
オルガン:サイモン・リンドレイ
合唱:ハダーズフィールド・コーラル・ソサエティ リーズ・フィルハーモニック・コーラス
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 カラヤンが~「20世紀で最も優れた合唱作品」と評価していた曲。
 20世紀の曲なのに、ちっとも難解なところは無い。マーラーの千人の交響曲に比べると、はるかにこのウォルトンの方が分かりやすい。ただただ豪華絢爛、音の大洪水、体が踊りだしそうなリズムに印象的な旋律の数々に身を任せてしまえばいいのだ。

 ダニエル&イギリス・ノーザン・フィルの演奏は非常に凝縮感があって、素晴らしい完成度。このコンビのウォルトンは鉄板だ。録音の音質も非常に素晴らしい。